現在の活動、お仕事の内容を教えてください。
名古屋市の「キャリアサポート事業」にて、キャリアナビゲーターとして名古屋市立山田高等学校で勤務しています。
仕事内容は主に、キャリア教育に関する授業づくりの支援を行っています。キャリア教育の時間として設定されている2年生の総合的な探究の時間(以下、総探)を中心に、授業案やワークシートを作成したり、職業人講話のコーディネートをしたりしています。時には先生方と一緒に、実際に教壇に立つこともあります。
学校現場で勤務を開始して最初に感じたことは「先生方の多忙さ」です。民間企業では考えられないような数々の役割を、一人一人の先生方が担われています。教科の授業以外にも、校務分掌や教科会、部活動、行事、生徒一人一人への対応、保護者への対応……と多岐にわたります。研修でも学校組織や教職員の職務について一通り学んでいたのである程度はイメージをしていましたが、想像以上でした。
そして、もうひとつ感じたことは、「引継ぎやプログラム内容の変更が容易ではない」という点です。総探は毎年2年生の学年団で運営されていますが、担任の先生は毎年入れ替わりますし、公立高校なので他校への転出入もあります。引継ぎが行われるのは3月末と非常に忙しい時期で、変更を行う時間的余裕は殆どありません。
そのような状況下で、キャリア教育を推進するために私ができることとして、主に2点あると考えています。ひとつは1年間のプログラム全体を把握しながら、先生方がスムーズに運営・実施できるよう支援をすること。もうひとつはより良いキャリア教育プログラムとなるよう都度改善を行い、全体設計を見直し、次年度の先生へ着実に引き継ぐことです。
さまざまな機能や役割を求められている学校現場でより良いキャリア教育を実現させていくために、先生方には先生方だからこそできる部分に注力していただき、キャリア教育を理解した専任者が生徒や学校の状況を把握したうえで常駐して支援する。この体制は、生徒にとっても、そして学校や先生方にとっても良いものになると感じていますし、そう感じていただけるように日々意識して仕事をしています。
また、キャリア教育に関する授業づくりの支援以外にも、生徒の個別面談や、放課後の時間を活用した社会人へのインタビュー会(オンライン実施)などを開催しています。直近の進路についてははもちろんのこと、生徒自身のライフキャリア形成という長期的な視点で、学内で気軽に自己理解、社会理解を促すことができるような取り組みをしています。
キャリア教育コーディネーター育成研修を受講したきっかけを教えてください。
大学生になるよりももっと前の段階で、自分自身の将来や人生について、多くの大人や企業と関わり合いながら考えていく機会をつくりたい、と思ったことがきっかけです。
もともと前職では、企業の人事として長年新卒採用を担当していました。採用活動で出会った学生は誰もがそれぞれ素晴らしい強みや特性を持っていましたが、その一方で、そういった強みや特性、また自己の根底にある価値観等に気づかないまま、福利厚生や給与等といった見えやすい部分だけで就職先を選んでいく学生を多く見かけました。「何をやりたいか(Doing)」は伝えられても、「どうありたいか(Being)」といった部分が置き去りになっている学生も多かったです。私自身もそうだったので偉そうなことは言えませんが、多くの学生は「就職活動」という目的ができて初めてようやく自分のこと、社会のことを知ろうとします。しかしいざ自分の過去を棚卸しようにも、小中学生の頃はもちろんのこと、高校生の頃のことも殆ど思い出せない。自分の価値観って?強みって?頑張ってきたことって?会社の数も多すぎてピンとこない……。といった具合に、迷宮入りする学生が多くいます。そんな学生を見ているうちに「もっと早い段階から多種多様な大人や企業に出会って、自分の強みや特性、自分にとっての幸せな生き方について考える機会があってもいいのではないか。」と思うようになりました。
実際に高校生と接していても、「生きたロールモデルとの接点」があまりに少ないなと感じています。彼らにとって身近な大人と言えば、保護者か先生か習い事の先生、あとは生活に身近な職業くらいでしょうか。今はインターネットでたくさんの情報にアクセスできますが、知らないものを検索はできないし、知ったとしてもどこか自分とはかけ離れて感じてしまうようです。生きた事例を知らないように思います。でも、実際には知らないだけでたくさんの人、仕事によって自分自身の日常生活は支えられていて、それぞれの強みが活かしながら、それぞれやりがいを持って働いている人たちがたくさん存在しています。もっと子どもたちのために、安心安全なかたちで、たくさんの生き方や働き方を知る機会をつくりだせたなら……と考えていました。そんなとき、「キャリア教育基礎講座※」に参加して、「私がやりたいのはこれだ!」と思ったのを、今でもよく覚えています。
※アスクネットで主催している、キャリア教育コーディネーター育成研修の説明会を兼ねたキャリア教育に関する講座。毎年2回、研修が始まる前の時期に行っています。
キャリア教育コーディネーター育成研修を受講され、役立ったことはありますか。
ただテキストの内容をそのままなぞるだけの研修ではなく、多様なゲスト陣のもと、インタラクティブにたくさんのことを学ぶことができました。特に高校の先生や商工会議所の方の実例を交えたお話は、今でもいただいた資料と併せて参考にさせていただいているくらいです。
また、短時間で授業案をつくるワークショップも実践的で良かったです。児童・生徒の発達段階を踏まえながらねらいや内容を考案することは決して容易ではなかったものの、ワークショップの形で一度経験したことで、後の実践コースにスムーズに進めたように思います。
そして、同期の方にも非常に恵まれたと感じています。それぞれ活躍の舞台は異なりますが、想いを共にした仲間で今も多くの方とつながっています。資格取得後もイベントを共催したり、情報交換をしたり、時には相談をしたりと、それぞれの舞台で活躍する仲間と互いに支え合い高め合える関係性が得られたことは心から尊く感じています。
今後の展望、チャレンジされたいことを教えてください。
この地域にもイキイキとした社会人やすばらしい企業等がたくさん存在しているので、そういった学校外の方々と生徒がつながるきっかけを増やしていきたいです。今は、昔よりも間違いなく生き方や働き方、幸せのあり方が多様化している時代です。その中で、子どもたちが自分らしい生き方を見つけていくことは決して楽なことではないと思います。まずは、たくさんのロールモデルとの出会いを通じて、自分はどう生きていきたいか考えるきっかけを生みだせたらと思いますし、そこから自分ならではの生き方を見出していってほしいと考えています。また、多くの大人との出会いによって、その方々が取り組まれているテーマへの興味・関心も同時に高まるのではないかと思っています。学校外の方々とのつながりをつくっていきながら、生徒たちが自分の感じている問題や課題を探究するきっかけにもなるよう支援していきたいです。
キャリア教育コーディネーターを目指す方へのメッセージをお願いします。
キャリア教育コーディネーターは、これから間違いなく必要になる役割だと私は思っています。これからの時代を生きる子どもたちが必要な力をつけるためには、「社会に開かれた学校教育の実現」が必須です。しかし、現在学校や先生が担うべきとされる役割はあまりに多岐に渡っており、やりたくてもやれないことがたくさんあるように感じています。また、キャリア教育全般に言えることですが、学校ごとに生徒の状況や環境が異なるため、他校で成功したプログラムをそのまま転用したらうまくいくか、というとそうではありません。各校にキャリア教育コーディネーターが常駐配置され、学校、先生、そして何よりも生徒の最大の理解者・支援者となることで、その学校に合ったより良いキャリア教育の推進に貢献できると思います。是非あなたの強みや特性を活かしたコーディネーターを目指してみてください。